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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(あ)712号 判決 1962年12月27日

主文

原判決並びに第一審判決を破棄する。

被告人を免訴する。

理由

弁護人中島長作の上告趣意第一点第二点は事実誤認並びにこれを前提とする単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。よって、職権を以て調査するに、記録によれば、本件公訴事実は、被告安藤興業株式会社は東京都西多摩郡福生町五五番地に本店を有し、同所に工場を設け家具類等の製造販売等の事業を営んでいる会社であるが、同会社代表取締役安藤平男こと李在鎬は同会社の業務に関し昭和二六年九月から昭和二八年一月までの間に、前記工場において別表のとおり同会社の製造した物品を米軍横田基地内に居住する米国人に移出したにかかわらず、物品税を逋脱するため、この事実を正規に記帳せず、かつ所定の申告書を提出しない等不正な行為を以て別表逋脱税額欄掲記の物品税額を各納期までに納付せずして別表のとおり物品税を逋脱し又は逋脱を図ったものである。右は訴状掲記の物品税法の各法条に該当するものであるというのである。しからば、右公訴事実中昭和二六年九月、一〇月、同二七年五月、六月、一〇月ないし一二月、同二八年一月、三月ないし八月の各月の物品税を逋脱した罪についての公訴時効は物品税法一〇条所定の納期たる翌々月末の経過を以て進行を開始し、同二八年九月、一〇月の各月の同物品税の逋脱を図った罪についての公訴時効は右法律八条所定の申告期限たる翌月一〇日の経過を以て進行を開始するものと解すべきところ、右各違反事実について、昭和二九年五月五日被告会社宛に通告処分がなされ、これによって公訴時効が中断されたこと、次いで、本件公訴の提起が昭和三二年一一月四日になされたことが記録上明らかな本件において、本件公訴は右通告処分があった後、刑訴二五〇条五号による三年の期間の経過により、公訴時効完成後に提起されたものとなり、刑訴三三七条四号に則り被告会社を免訴すべきものといわなければならない。(昭和二九年(あ)第一三〇三号同三五年一二月二一日大法廷判決集一四巻二一六二頁参照)されば、これと異なる見解の下になされた第一審判決並びにこれを支持した原判決は、ともに刑訴四一一条一号により破棄を免れないから、これを破棄し、刑訴四一三条、四一四条、四〇四条、三三七条四号により、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官高木常七を除くその余の裁判官全員一致の意見である。

裁判官高木常七の反対意見は次のとおりである。

わたくしは、いわゆる両罰規定により法人に刑を科する場合の公訴時効は、法人に適用すべき刑が罰金であっても、行為者の違反行為の罪の公訴時効に従うべきものと解するから、これと同趣旨に出でた原判決は正当である。その詳細の理由は、昭和二九年(あ)一三〇三号、同三五年一二月二一日大法廷判決において述べたわたくしの少数意見のとおりであるから、これをここに引用する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七 裁判官 斎藤朔郎)

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